「現代数学入門」代数的構造

代数的構造 一

代数的構造というのは、誰もが数学で台数というものは学んでいます。
{1,2,3,4,……}という自然数または正の整数の集合があるとします。
これは無限個あります。
そして、これは単なる集合だけではなくて、足し算というもので足すと、例えば、1+4=5というように、二つの要素を選んで足し算で結合すると5という数が作り出されます。

このように2つの数字を結合して新しい数字が作り出されると考えますと、この2つの数字の中には相互関係が規定できます。
任意の2つの数字を取り出して足し算をすると第三の数字が作られます。
これは明らかに第三のものが生じています。
このような相互関係を持ったものを代数的構造と言います。
足し算は、その代数的構造の一種でしかありません。

また、最近ではコンピュータがなければ日常が送れませんが、このコンピュータの原理となっているものの一つに記号論理学というものがあります。
これは一般の論理学と違っているものではありませんが、記号を使っていろいろな推論を機械的に行おうとするものです。
一般の論理学と違った結論を出すということではなく、記号を使うことでとても複雑な推論が計算によって正確に間違いなく行えるというものです。
この最初のアイデアを出したのは、ライプニッツです。

代数的構造 二

ライプニッツは、西洋哲学史の中で背必ず名が出て来る人です。
そのライプニッツが記号論理学の基礎を作りましが、完成はできませんでした。
この記号論理学は、論理的な推論を代数の計算と同じように式の計算で行います。
それを機械で行っているのが、現在のパソコンです。

これのどこが代数的構造かと言いますと、例えば、集合として命題の集合を考えるからです。
命題とは主語と述語かある何らかの判断を著わす事を言います。
例えば、「犬」というのは、命題ではありません。
「犬が走っている」というのは、命題です。

主語と述語があるから何かを主張しているのです。
その内容が本当か虚構かの判断は致しません。
例えば「太陽から昇る」というのも命題です。
唯それが本当の事かどうかは問わないのです。
地軸がさかさまになるなど、場合によっては、太陽が西から昇るようになるかもしれません。

一つ一つの命題のを仮にA,B,Cという記号で表します。
この二つの命題を代数の足し算や掛け算と同じように、andでつなぎます。
両方とも成り立つということです。
これをA∧Bで表記します。
もう一つはorで、AになるかBになるかという事を著わし、A∨Bと表します。

また、AとBとで表された命題を結合しますと、新たな命題が生じます。
例えば、「今日は雨が降る」「今日は風が吹く」という命題をandで都合すれば、「今日は雨が降り、風が吹く」。
orですと、「今日は雨が降るか、風が吹くか」となります。
これを複合命題と呼びます。
このように二つのものを結び付けて第三の命題が作られるのです。
そういった意味で、これは代数的構造をしているのです。

代数的構造 三

記号論理学では、andとorの他にnotがあります。
このnotを表記する仕方はいろいろありますが、上に棒引く表記が一般的だと思います。

しかし、ここではそれが書けませんので、A^―と書きます。
例えばAが「今日は雨が降る」という命題であったならば、A^―は「今日は雨が降らない」です。
これをさらに否定した二重否定すれば、A^==Aで元の命題と同じになります。

andは普通の掛け算に似ていますが、全く同じというわけではありません。
orは足し算によく似ています。
否定のnotはマイナスAによく似ています。
例えば、マイナスを2回とれば、元に戻ります。
これは、二重否定が肯定と同じです。
and,or,notという3つのもので命題を関係付けます。

それは、足し算や掛け算などで一つの代数が出来るように、命題を計算の対象にする事が出来ます。
それ故に昔からこれを論理代数と言ったのです。
今では、記号論理学、または数理論理学と言います。
この記号論理学は、一般的な論理学と違わないのですが、唯、記号を使うことが違っているのです。
このように記号論理学を使用すると非常に錯雑としたものが間違わずに扱えるようになるのです。
そこで、この記号論理学がコンピュータに使われることになったのです。

代数的構造 四

何故、コンピュータにこの記号論理学が使用されるかといいますと、A∧B(and)の方は、電気回路を作るときに直列につなぐことに相当します。
これをシリーズでつなぐと言います。
ここにAというオンとオフにできるスイッチがあり、それと直列につないでBというオンとオフのスイッチがあります。

そしてorはパラレルと言います。
これは電気回路を並列につなぎます。
何故かといいますと、先述の「今日雨が降る」「今日風が吹く」という命題をandで置きますと、これが現実のものとなるには、両方とも本当にならなければなりません。
雨が降って、かつ風が吹かないと本当ではなく、嘘になります。
これが直列でつながれている場合は、両方ともスイッチがオンでないと電気は流れません。

これが並列でつながれていますと、命題は「今日は雨が降るか、風が吹くか」というようになり、この命題は、雨が降るか風が吹くかのどちらかが本当になれば、本当なのです。
これをスイッチで言えば、一方がオフでも一方がオンならば、電気が流れるので真となります。
このために、パソコンなどの複雑な電子回路を設計するのに記号論理学が使われるのです。
つまり、直列がand、並列がorとなるのです。

代数的構造 五

例えば、エレベータなどの複雑な回路ですと、これは一階のボタンを押せば電気が流れて一階に止まるようになっています。
また、エレベータの戸が自動で開くようになっています。
これは、複雑な回路でなければできません。
このエレベータの配線をどのようにするかは、慣れた人でも簡単にはできない筈です。
それほど複雑な回路が組み込まれているからです。

とても簡単な例ですが、二階建ての家で階段のところの電燈を上と下の2つのスイッチで消したり点けたりするのは、どんな配線になっているのか、電気屋さん以外、解らないと思います。
これがエレベータになると電気屋さんでもわかりません。

しかし、ここで記号論理学を使えば、記号論理学でスイッチのオンとオフを直列(シリーズ)でつなぐか、並列(パラレル)でつなぐかという式で表されますので、それを翻訳すれば、個々のスイッチはシリーズでつなぎ、あそこのスイッチはパラレルでつなげばいいということが解かります。
それがコンピュータでは使用されているのです。

エレベータに関していいますと、日本が、例えば、エレベータが3つ並んでうまい具合に各階に行くという設計は、日本が一番進んでいるのだそうです。
それというのも、日本人がとてもせっかちだからということです。

代数的構造 六

論理学は、コンピュータの登場以前には、全く頭の中の思考の問題と思われていた節がありますが、コンピュータの登場で、記号論理学のandとorとが電子回路の直列と並列と全く同じということで、一気に現実的なものへとその役割が変わってゆきました。
つまり、andとorは電子回路の直列と並列に同型なのです。

この同型ということが実際に使われています。
例えば、シミュレーションがその好例です。
その一例として、飛行機や自動車などの風洞実験がそうです。
非常に大型の飛行機や実際に自動車を設計し、その飛行機を実際に飛ばしたり、自動車を走らせてどのような風圧があるのかを見ることは大変危険です。

その代わりに、飛行機や自動車の雛形を風洞に入れて、空気を流してその空気の流れを見ることができます。
こうしてシミュレーションすれば、実際に飛行機や自動車を作らなくとも代用できます。

また、現在では、シミュレーションといえば、コンピュータ上でのシミュレーションを指す場合が殆どで、実際に風洞を作らずとも飛行機や自動車のシミュレーションはできますし、核実験も、データさえあれば、コンピュータ上でシミュレーションできる時代が到来しています。
これは、コンピュータにデータを入力すれば、現実に非常に近似的な状態が再現できるという事を意味しています。
また、現在では新薬の開発に、薬の分子構造をコンピュータ上で原子単位での結合のシミュレーションをする事で新薬の開発が普通に行われています。

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