「現代数学入門」構想力

構想力 一

いろいろなものが入ってきた理由は、人間の構想力が自由になったからに外なりません。
人間の構想力によって新しいものをつくり出すという事は、例えば、目覚ましい進歩を遂げる有機合成化学の次々と新しい物質をつくり出すやり方を見ると、それは無から新しいものをつくり出してはいません。
これまであった物質を組み替える事で新しい物質を生み出しています。

その点では、主婦が作る料理と何も違ったところはありません。
例えば、コロッケを作るのにはジャガイモや肉をすりつぶして、それを団子にするのですが、これも食材のジャガイモと肉を一度分解して、それを再構成しているにすぎません。

コンクリートで家を建てる仕事にしても、元をたどれば、石灰石を打ち砕いてセメントにしています。
そして、セメントの粉を再結合していっていの形の家を造るのです。
ここでも分解と再構成の過程が行われています。

しかし、分解と再構成はいろいろな程度があります。
例えば、子供が積み木を壊して同じ積み木で汽車を作っても、それは分解の再構成には違いありませんが、化合物を分解、合成する科学者のそれとは歴然とした差があります。
積木は大きいもので、分解も再構成も簡単にできますが、科学者の分解、再構成は、原子という極微の世界で行わなければなりません。

構想力 二

芸術家の仕事も、やはり分解と再構成という手続きが大きな役割を演じています。
複雑な音を一度単純な音に分解し、それを構想力によって再構成するのが作曲者の仕事です。
Composeという言葉は、「構成する」という意味の外に「作曲する」という意味があります。

絵描きもまた、同じだと思います。
唯、自然主義的な絵では、ありのままに描くという意味もありますが、しかし、写真とは違って、やはり、分解と再構成が行われている筈なのです。
ところが抽象画になりますと、分解と再構成の手段が大胆に意識的に使用され、その結果、対象とは余りにも似てもにつかぬ絵が出来上がるのです。

抽象絵画の理論づけをしたカンディンスキーは『点、線、面』という本の中で分解と再構成という考え方を強く打ち出しています。
幾何学では分解を極度に推し進めた究極の要素としての点から再構成を進めてゆきますが、カンディンスキーも幾何学とは違った意味でですが、点から語り始めるのです。

図形は点まで分解してみるのは、分解することが目的ではなく、再構成の自由を一層多く勝ち取るためです。
これを推し進めたのが映画のモンタージュだと思います。

以上のように分解と再構成、または、分析と総合という操作を意識的に使用する抽象絵画と同じ方向をとっているのが現代数学の公理的な方法というものなのです。

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