「現代数学入門」体

「体(たい)」というのは、人間の身体とは別の何も関係もありません。
英語で言うとfieldというので、英語を直訳しますと、「場」ということになりますが、これも物理学で電磁場などとも何の関係もありません。
昔、英語でcorpusという「死体」などを意味する言葉を使っていましたが、不吉という事でfieldになったということです。

体とは何かと言いますと、それは、数学的に定義するしかありません。

まず、体はなにものかのものの集合です。
その上に+、-、×、÷の演算が定義されています。つまり、一つの代数的な構造(structure)なのです。

正確に言うと以下のようになります。
集合Kが次の条件を満たす時、体と名付けます。

(1) Kは可換群である。その群の乗法はa+bのように加法で表す。その群の単位元を0で表す。
(2) Kから0を除いたK'は別のある可換群をなす。この群の乗法はabのように乗法で表す。
(3) 加法と乗法との間には分配法則が成り立つ。

a(b+c) = ab+ac
(b+c)a = ba+ca

換言すると体Kは、+、-、×、÷という四則の定義された集合であって、その四則は結合法則、交換法則、分配法則を満たしている。

以上のことから、体というものを既にいくらでも知っていることになります。
例えばKとして全ての有理数の集合を取れば、それは普通の加減乗除について体をつくることが解かると思います。

体 二

また、全ての実数の集合も普通の加減乗除に対して体をつくっています。

しかし、全ての整数の集合は体になりません。
それは加法に関して群をつくりますが、乗法に関して群をつくらないからです。
任意のaに関してa^-1が存在しないからです。

体は加法群であると同時に乗法群(0を除いて)であるので、二重構造になっています。
それ故に加法群の単位元0と乗法群の単位元1は必ず含んでいなければなりません。
つまり、体は最低二つの要素を含んでいます。

ところが、その0と1だけしか含んでいない体が存在します。
これはもちろん最小体です。

加法は以下のように定義されます。

0+0=0
0+1=1
1+0=1
1+1=0

乗法は以下のようになります。

0×0=0
0×1=0
1×0=0
1×1=1

これに関して結合、交換、分配の諸法則が成り立つことが解かると思います。

この体の四則は整数を偶数と奇数に分けたときの加減乗除と同じです。

偶数+偶数=偶数 0+0=0
偶数+奇数=奇数 0+1=1
奇数+偶数=奇数 1+0=1
奇数+奇数=偶数 1+1=0

乗法に関しては、

偶数×偶数=偶数 0・0=0
偶数×奇数=偶数 0・1=0
奇数×偶数=偶数 1・0=0
奇数×奇数=奇数 1・1=1

つまり、

偶数→0
奇数→1

という対応を結び付けますと、偶数と奇数の間の加減乗除と同型なのです。

以上のような体は最小のタイで有限個の要素を持っています。
この体のほかにも有限個の要素を持つ体があります。

例えば、3個の要素を持った体も存在します。
その各要素を0、1、2で表します。

K={0,1,2}

加法は3の倍数が0になるように定義しておきます。

0+0=0
0+1=1
0+2=2
1+0=1
1+1=2
1+2=0
2+0=2
2+1=0
2+2=1

乗法も同じです。

0・0=0
0・1=0
0・2=0
1・0=0
1・1=1
1・2=2
2・0=0
2・1=2
2・2=1

結論的に言いますと、1つの素数pの累乗p^n個の要素を持つ体は存在すると言えます。
このような有限個の要素を持つ体を有限体と言います。
この有限体の存在をはじめて発見したのは、ガロア(1811~1832)であったので、有限体のことを「Galois field」とも呼んでいます。

はじめに

古代の数学

中世の数学

近代の数学

現代の数学

現代数学への誘い