「現代数学入門」位相空間と分離公理

位相空間と分離公理 一

位相空間は距離という概念を利用しない遠近のまま定義された空間です。
位相空間Rはその要素の「点」の集合であるばかりではなく、その部分の閉集合であるかないかの指定がされてゐればいいのです。
それだけで空間としてのRの性質は確定したものと看做してもいいのです。

Rの全ての部分集合が閉集合として指定されたとしますと、それは閉集合の極端に多い空間となりますし、また反対にR自身と空集合だけが閉集合である空間は逆に極端に閉集合の少ない空間となります。
他の空間はその両極端の中間にあると看做せます。

それでは閉集合が大家異化少ないかは、その空間の性格にどのように影響するのか。

例えば、1本の[0,1]の区間の線分をとってみます。

これを一つの位相空間Rと看做しますと、このRは二つの互いに共通部分のない閉集合に分解することはできません。

R=A∪B

で、A∩B=φ(空集合)とします。

Aの点で右の方にBの点の存在するような点全体をA'とします。A'の上限の点をCとします。

εを任意に小さい正数として区間[C-ε,C]を考えるとこの中には必ずA'の点が存在します。

また、[C-ε,C+ε]の中にBの点が入っていなかったなら、上限はC+εもA'に属することになって矛盾します。
それ故にこの中にBの点も含まれます。
つまり、CはA、Bの触点になっているのです。
A、Bは閉集合ですので、Cは両方に含まれることになります。
これは矛盾しています。
それ故にRは共通部分のない部分集合に分解することはできません。

しかし、二つの区分からできている空間は、明らかに二つの閉集合A、Bに分けられます。

R=A∪B,A∩B=φ

それ故に二つの閉集合に分けられないような空間は連結していると考えていいです。
でなければ、切断していると看做していいです。

R=A∪Bと分解したときはBはAの余集合であるので開集合にもなっています。
それ故に連結している空間RはR自身と空集合以外には閉集合であり、開集合である部分集合を持っていないことになります。
それに反して第二の例はそのような部分集合を持っているのです。
後者の方が閉集合が多いと言えます。

この例から解かるように、閉集合が多ければ多いほど、その空間の裂け目が多いということになるのです。

それ故にR自身と空集合だけを閉集合とする空間は最も裂け目のない空間なのです。
逆にすべての部分集合が閉集合になっている空間は、最も裂け目が多く、すべての点が残りの点から孤立しているという空間です。

他の空間は、この両極端の中間に位していて、閉集合もRと空集合以外ありますし、また、すべての部分集合が閉集合であると言うように多くはないのです。

このように指定された閉集合――もしくはその余集合としての開集合――どのくらいあるかということを点や部分集合を近傍で分離することがどの程度可能であるのか、という条件で言い表したものに「分離公理」と言われるものがあります。

分離公理は程度によっていろいろな段階に分かれています。
だんだん条件が厳しくなってゆくにつれて、位相空間がわれわれの住んでいるユークリッド空間に近づいてきます。

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