数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
ギリシャの考え方は、一般法則から個々の特別な事例を証明するという演繹と呼ばれる考え方でした。
もう一つのギリシャでの特徴的であったのが、運動というものを避けて、つまり、動的なものではなく静的なものの捉え方をしています。
このギリシャ人の数学の考え方をまとめて一つの体系にしたのがユークリッド(BC紀元前300年頃)です。
紀元前300年頃は、古代ギリシャというよりは、世界史の眼で見るとアレキサンダー大王(紀元前356~326)が大帝国を作っていました。
その大帝国の首都がエジプトのアレクサンドリアです。文化ではヘレニズム文化が花盛りです。
ユークリッドはアレクサンドリアの図書館に勤めていた学者でした。
そのため、古代ギリシャの時代というよりも百年、もしくはもっと後の人です。
ユークリッドが、ギリシャ人の考え方を一つの体系としてまとめました。
ユークリッドはがいくつか公理を設定して、これらの公理を組み合わせて幾何学の学問体系としたものが、『原論』と呼ばれるものです。
これは英語ではElementと呼ばれるもので、ギリシャ語では「ストイケイヤ」といわれるものです。
意味するところは、元(もと)というもので、もっと正確に言いますと、数学のアルファベットのABC……という事で、日本語に直せば数学理のイロハとなります。
ユークリッド『原論』は、ギリシャ人の考え方を徹底的に適応して幾何学の体系を作ったものです。
そして、ユークリッド以降の数学は、ユークリッドの『原論』を踏まえたうえでの考え方が展開してゆきました。
ユークリッドのもう一つの特徴は、演繹的であるのに加えて静的でした。
例えば、三角形ABCがあるとすると、その三角形が伸びたり縮んだりせずに、また、動いていたりせずに、静止して固定した三角形を扱っています。
つまり、ユークリッドの『原論』は静的なのです。
その為に、当時の数学は、静止しているものに関しては対応できたのですが、動くものに関してまったく対応できないものでした。
これが長く続く中世の数学でした。
ギリシャ人の数学というのは、徹底的に「見る」事による数学でした。
数字も図形として見ていたように思います。
森羅万象には「型」が存在するとの考え方がギリシャ人の考え方の特徴の陽です。
つまり、何事も、見て、形あるものとして物事を捉えるという考え方です。
そのために、図形問題が殆どの幾何学というものがギリシャでは発展したのです。
そして、それらのギリシャ人の「見る」ということから「型」を当てはめる数学をまとめて体系としたのがユークリッドの『原論』なのでした。