数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
まず、無ユークリッドの場合、幾何学の基本となる点や平面というものがなんであるのか決めています。
「天は部分を持たない」。
部分を持たないというのは、大きさが存在するとそれを分割すれば部分が必ず出現します。
つまり、点は大きさがないという事を意味します。
「直線はまっすぐである」と言った定義をしています。
この定義というのは、幾何学が使っている点、線、平面という概念と実在の世界とのつながりが存在します。
しかし、ヒルベルトは、そのようなことはありませんでした。
点、線、平面の所謂普通の意味での定義は存在しません。
このようなものをヒルベルトは「無定義語」と呼んでいます。
点、線、平面という言葉を普通に使っていますが、それを「幾何学の基礎」を読む時には、注意しなければなりません。
ヒルベルトは、これらの事は唯、慣習で行っているに過ぎないというのです。
この点が数学の素人には大変解かりにくいものです。
普通であれば、定義しなければ、議論になりません。
この点が解かれば、現代数学の半分ぐらいは解かったことになります。
何故、ヒルベルトは無定義語から始めるのかということが問題なのです。
これを後ほど明らかにしてゆきますが、この点がユークリッドの『原論』とヒルベルトの『幾何学の基礎』との大きな違いです。
例えば、ヒルベルトの『幾何学の基礎』の百年位前に、幾何学に「双対の原理」というものが登場してきました。
「双対の原理」とは、点と線とだけから成り立っている幾何学というものがあります。
このような幾何学を「射影幾何学」といいます。
このような射影幾何学出点と線に関する或る定理が成り立っているとします。
そこで、これに関して点を直線に、直線を点に入れ替えます。
そして、交わるという事を結ぶという事に、結ぶを交わる事に置き換えます。
これを「双対の原理」といいます。
これまで私たちは、点というものを例えば鉛筆の先でちょこんと紙の上に印を付けたようなものとして考えていたと思います。
また、直線とは、定規で引いた線を指していると思いますが、「双対の原理」で考えますと、点は直線に、直線は点に置き換えてもいいことになりますので、天というものを従来通りの点と考えてもいいし、直線として考えてもいい事になります。
「双対の原理」はヒルベルトの『幾何学の基礎』のきっかけになっていることは間違いありません。
「双対の原理」~点というものを実在のものとの関係で決定させておかずに、無定義のままの萌芽数学では都合がいいのです。
つまり、無定義語とは、そういう定義しないで置く事を指して言います。
ヒルベルトという人は、ここ百年の間で見ると傑出した数学者といえます。
ヒルベルトは、人を驚かせるような逆説を言うのがとても好きだったようです。
『幾何学の基礎』という本を出版した時、無定義語を説明するのに「僕がここで点、直線、平面と言っていることは、机や椅子、ビールのコップというようなもので置き換えてもいい」というようなことを言ったと言われています。
ヒルベルトは、物事を極端に言うことが好きだったらしいのです。
それでは、何も決めておかなくていいかといいますと、そうではなく、点というもの、直線というものの間にある相互関係だけははっきりと決めておきます。
このことを公理としています。
以上のことがヒルベルトの『幾何学理の基礎』の基本的な考え方です。
ヒルベルトの『幾何学の基礎』という感化が得方があったために、20世紀以降の新しい数学が登場したのです。
このヒルベルトの無定義語という考え方は、一見すると奇妙に思うかもしれません。
しかし、私たちは、変数xとかyとかを知っています。
変数とは、何にでもなり得るものです。
Xの取り得る値というのは、整数、有理数、実数とか取り得ますが、2次方程式の解の場合、xは場合によっては虚数になる場合があります。
変数というものは、何物にも変わり得る、つまり、融通無碍なものとして大変便利なものです。
2次方程式を出せば解かり易いと思いますが、xとyの関係式(=相互関係)が規定されているだけです。
これがヒルベルトの『幾何学の基礎』の基本的な考え方なのです。