数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
まず、コルモゴロフの分離定理というものを取り上げます。
それは以下の通りです。
「空間Rの任意の2点を取った時、少なくともそのうちは1点は他の一点を含まない近傍を有する」
この条件をT0といい、この条件を満足する空間をT0-空間と名付けます。
例えば、R自身と空集合だけを閉集合とする空間は、開集合もRと空集合だけだからで、一方だけを含み、他を含まない開集合は存在しないし、したがって近傍も存在しません。
このようなT0-空間では、1点pの閉包(p)は必ずしも其の1点ではありません。
一般には、
p∩(p)でp≠(p)
となっています。
このような空間の例として、次のようなものがあります。
三角形の3頂点を1、2、3と名付け、三角形を{1,2,3}、辺を{1,2}、{2,3}、{3,1}、頂点を{1}、{2}、{3}とし、これらの7個の集合をRとします。
例えば、辺{1,2}の閉包は、
{1,2}、{1}、{2}
です。
この時、余集合は開集合になっています。
T0の条件を閉包の条件に翻訳しますと、次のようになります。
定理:2つの異なる点の閉包は異なる
証明:p≠qとします。一方のpがqを含まない近傍U(p)を有するとします。
(p)≠(q)
逆に、(p)≠(q)とします。pが<q>に含まれますと、
(p)∩<<q>>=<q>
また同じくqが(p)に含まれますと
(q)∩(p)
同時にp∩(q)、q∩(p)が成立すると、(p)=(q)となって矛盾します。 それ故にp∩(q)、q∩(p)の一方は成立しません。 仮に、p∩/(q)(∩/は含まないと言う記号です)ならば、pは(q)の余集合R-(q)に含まれます。 これはU(p)とすれば、このU(p)は開集合で、qを含みません。(証明終わり)
一般に半順序系Pがあったとします。
つまり、Pは半順序∧の定義された集合であるとします。
このPの部分集合Aに対して、Aのある要素aをとってx≦aとなるすべての要素の集合をその閉包の(a)と定義しますと、そのようにして得られた位相空間はT0-空間です。
それというのは、p≠qとして、pはqを含みませんので、(p)≠(q)、p>qでも、やはり、(p)≠(q)であり、T0-空間であることが解かります。
逆にT0-空間があって、p∩<q>のときp≦qという2項関係を導入しますと、p≦q、q≦rから
p∩<q>、q∩<r>
それ故に
p∩<q>、<q>∩<<r>>=<r>
となり、
p∩<r>
それ故に
p≦r
つまり、この≦は推移的となります。
それ故にこのRは半順次系。
それ故にT0-空間は半順序系と同一視しても差し支えありません。
T0-空間では、1点の閉包がその点より大きくなると言うのです。
幾何学的な常識からはほど遠いものです。
それ故にハウスドルフなどはこういう条件を飛び越して、もっと厳しい条件を始めに設定しました。
ところが、T0という条件は半順序系と関係づけられることが解かると、これは重要な一段階となりました。