「現代数学入門」近傍

近傍 一

「点」と称する者の集合があり、それらの点の間に「距離」と称する負でない実数が定義されていますと、そこに遠近の規定された一つの空間が現われます。
このような空間を「距離空間」と呼びました。

距離という考えは、私たちにとって親しみ深い考えてあるので、距離空間も把握しやすい筈です。
「点」の間に何らかの意味で遠近の関数が定義されているのが、これから述べようとする位相空間です。

トポロジーという数学の一部門は、図形――その中には空間も含めることにします――を連続的に変形する事によって変化しない性質を研究するという課題を持っています。

ゴムの膜を連続的に変形した場合、その時は2点間の距離は思いのままに変形します。
つまり、距離があてにならないのです。
しかし、ゴム膜の表面にかいた図形のつながり具合は変わりません。

この連続的な変形によっても変わらない性質を研究しようとしたものがトポロジーなのです。
つまり、距離に頼らないのです。
それ故に、距離とは違った別の拠り所が必要で、それが「近傍」という考え方なのです。

近傍 二

まず、準備として距離空間の中で閑雅てみます。
距離空間Rの中の1点pをとります。
この時動く点xが次第にpに近づく、ということは簡単にxとpの距離d(x,p)が0に近づくということに外なりません。

この見方を変えて、pからの距離が一定の数rより小さいd(x,p) そして、これをS(r)で表します。
Rをいろいろと変えると、pを中心とした同心円状の列ができます。

xがpに近づくということは、xがこの同心円の障壁を次々と突破することに外なりません。
つまり、S(r)では、rをいくら小さくしてもxを遮断することができないということを意味しています。

x1,x2,x3,……,xn,……

という点の列があった時、どのようなS(r)も必ずある番号NからさきのxN,xN+1,xN+2,……は全て含むのです。

このようなS(r)はpの周りにあって、pに近づいてくる点を見分けるのに決定的な役割を果たします。
このようなS(r)の点を近傍といい、この近傍全体の集合をpの近傍系といいます。

距離空間の近傍はその空間の部分集合であるが、それは距離によって集められています。
距離を定義されていないような「点」の集合Rに関しても、その部分集合を選び出して、それを近傍に相当するものと看做せれば、距離空間とよく似たものが出来上がります。

以上のようにして出来上がったのが近傍空間です。
集合Rの部分集合に点pの近傍であるかないかの指定をしますと、それで遠近の概念がRの中に導入されます。
この近傍も定義します。

(1)Rのあらゆる点はは少なくとも一つの近傍を持ち、点pはその近傍の全てに含まれます。

つまり、pは近傍をU(p)としますと、

p∈U(p)

(2)同じ点の2つの近傍は第三の近傍を含みます。

(3)点qが点pの近傍U(p)に含まれているとしますと、点qの近傍でU(p)に含まれるものがあのます。

距離空間の近傍である球も以上(1)、(2)、(3)の条件をもちろん満たしています。

近傍空間は距離空間のもついろいろの性質のうちで、(1)、(2)、(3)だけを持つものであればよいのです。

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