数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
2つの群が同じ構造を持っている事を具体的に確かめるには、どうしたらいいのでしょうか。
そのために、まず、群の構造といっても、それは乗法の決め方の総体であることです。
G,G'という2つの群があった場合、2つの群の乗法の票が全く同じになったら同じ構造を持つと言ってもいいでしょう。
つまり、G,G'の要素の間にうまく一対一対応をつけて、かけた結果もやはり対応しているように出来たならいいのです。
G={a1,a2,a3,……,ai,……,ak,……al,……}
<-> <-> <-> <->
G'={a'1,ka72,……,a'i,……,a'k,……a'l,……}
上記のような対応をつけてGの中の乗法がそのまま、G'に持ち越されるとGとG'は同型であると言います。
aiak=al
<->
a'ia'k=a'l
この一対一対応を
φ(a1)=a'1
φ(a2)=a'2
…………
φ(ai)=a'i
…………
φ(ak)=a'k
…………
φ(al)=a'l
…………
と書きますと、
φ(aiak)=φ(ai)φ(ak)
と書く事が出来ます。一般的にa,bという文字を使いますと、
φ(ab)=φ(a)φ(b)
となります。
つまり、上記のような性質を持つGとG'の間の一対一対応φが存在する時、GとG'は同型にあると言います。
これを言葉で書きますと、
「Gの中の任意の2つの要素a,bをGの中でかけ合わせて、それをφでG'にうつした結果と、a,bをφでG'にうつした上でGの中でかけ合わせた結果は一致する」
この時GとG'は同型であると言います。
上述のように一対一対応φは「乗法を保存する」という事が出来ます。
以上のことが構造を持つ群と無構造の集合の違いです。
2つの集合M,M'の間の一対一対応のさせ方には以上の付帯条件が付いていません。
故に、MとM'の個数がnである時、その間の一対一対応のさせ方はn!だけある事になります。
しかし、位数nの群の間の同型対応のさせ方はφ(ab)=φ(a)φ(b)という付帯条件がありますので、n!よりずっと少なくなります。
例えば、Gの中の中の単位元eはG'の単位元e'に対応し、それ以外のものには対応しません。
何故なら、
φ(a)=φ(ae)=φ(a)φ(e)
G'の中でこの条件を満たす要素は単位元e'しかないからです。
φ(e)=e'
Gの中のeをG'の中の勝手な要素に対応させる事が出来ないとなりますと、φという同型対応の数はn!よりはるかに少ないという事が解かります。
構造が同じであるかどうか、を比較する事は難も群で初めて出て来るものではありません。
三角形の相似でもやはりそうであります。
2つの三角形△ABCと△A'B'C'が相似であるかどうかを調べるには、それらを3つの辺に分解し、それらの3つの辺がどのように相互に関係しているかを一つ一つ調べればいいのです。
それは、辺ABと辺BCの相互関係(つまり、交角)と、辺A'B'と辺B'C'の交角が等しい、ということです。
つまり、2つの構造の型に比べるのに、おのおのの構成分子の間の相互関係を一つ一つ検討してゆくというやり方ですから、分析的に方法といえます。
それでは、群の同型というのは、どのような意義を持っているのでしょうか。
GとG'とが同型である場合、その間の同型対応φはG、G'の乗法の規則に留意しなければなりませんが、それ以外の事は全く無関係です。
例えば、Gが正三角形をそれ自身に重ね合わせる操作全体の群であるとするならば、それは位数6の群になる事を知っています。
一方、G'は{1,2,3}という3つの数字を入れ替える操作の集まりであるとします。
この時、GとG'とはそれらが「何にはたらくか」という観点から眺めるとまるで違ったものになります。
一方は、三角形の重ね合わせであり、一方は文字の入れ替えです。
しかし、また、「何にはたらくか」という側面を暫く不問に付して、操作同士の間の相互関係がどうであるのかという点だけを注目するならば、GとG'は同じ構造を持っています。
つまり、同型ということになります。
それ故に、一見するとまるで無関係だった2つの現象が、或いは、研究対象の間、意外な類似性、または平行性があり得るのです。
それは2つの現象若しくは研究対象の根底にある群が同型であるという事実に由来することが少なくありません。
例えば5次方程式を例に挙げてみますと、5次方程式を代数的に解く時に位数が60の群が現われてきますが、これは、正20面体を自分自身に重ね合わせる操作全体で作る群――これを正20面体群といいます――と同型なのです。
代数の5次方程式と幾何の20面体とでは一見しては何の関係もなさそうに思えますが、両方ともに潜んでいる群が同型ですので、5次方程式と正20面体との間には深い親近性がある事が次第に明らかになってきました。
このような例は他にもたくさんある事が解かっています。
群という眼鏡を通して見てみますと、意外に多くのものが同じ型の理論で捉えられることができるのです。
群の威力をはじめて発見して、その重要性に気付いたのはガロア(1811~1832)でした。
ガロアは、代数方程式に群を適用して目覚ましい成果を挙げましたが、その後、群は、数学のあらゆる部門へと浸透してゆきました。
クラインは、幾何学に群を応用して、これまでの幾何学に統一的な見解を齎しましたし、ポアンカレとクラインは関数論に群を応用して保型関数論をつくり出しました。
このように群を数学のあらゆる部門に適用してみる事は、19世紀の数学者たちの共通の課題の一つでした。