「現代数学入門」構造の科学

構造の科学

数学という学問は、じゃんけんの三すくみのように、石、紙、鋏がどのような性質のものであるのかという研究は、脇に置いておいて、要素の相互関係を重視して研究するのが数学という学問で、それは、「構造の科学」と言えるものなのです。
いろいろな構造というものが数学には蓄積されています。
社会が発展すればするほどパターンも増えてゆきます。
数学者は職業上そのようなパターンをよく知っている専門家ですが、一般の人も、たくさんのパターンを知っていて、それを活用して現実の問題を処理している筈です。
数学を構造の科学というと、そのパターンが強調され、解かり易くなると思います。

数学は、字義の通り、数の学となっていますが、それはちょっと数学とは違います。
数学を算術のようにとらえている人もいますが、数の研究は、当然しますが、それは、数学の一部分でしかなく、数学は、構造の研究が主なのです。

数学は、小学校の算数でも構造の事を学んでいたのです。
例えば。2+3=5とは、ミカン2つとミカン3つを足したならば、5つのミカンになるということで、これは、構造の事を学んでいるのです。

ミカンがリンゴでも人間でも何でも構わないのです。
つまり、ものは違っていても、構造は同じであるという事を学んできたのです。
その違うものを代表するのが2+3=5なのです。
このように見ますと、私たちは、小学校の時から構造を学んでいたと言えます。
これまでは数で表される構造を主として行っていました。
しかし、現代数学では、数で表されないものの関係も研究対象になっています。

数学というのは、「構造の科学」でした。
大学で数学科は理学部にある筈ですが、それは自然現象が数学に関係していたからに過ぎません。
ところが、現在では、さまざまな社会現象の中に同じパターンのものがいくつも存在することが解かってきました。
つまり、数学は、社会現象にも使えるものになったのです。

構造の科学 二

例えば、2つの都市があるとします。
Aという都市とBという都市です。
Aの人口をм1、Bの人口をм2とし、AとBとの距離をrとしますと、AからBへとトラックか汽車かでの全部の交通量は、

(kм1м2)÷r^2 kは定数

と、人口の積に比例して、そして、距離の2乗に反比例するそうです。
これに近い法則があります。
それは、ニュートン利器が幕の万有引力の法則と、電磁気学のクーロンの法則が同じような構造、つまり、同型となっています。
もちろん、大まかな話ですが、大きな都市ほどそこに入ってくる物資や人は多くなるというものです。
都市の大きさに比例するという事は、いかにも真実に思えます。

そして、2つの都市の間の距離が遠くなれば、交通量は減ってきまます。
これも経験から解かる事です。
それが大体距離の2乗に反比例します。
これは、社会現象に見られる一つの法則に過ぎませんが、之とニュートンの万有引力の法則が同型です。
一方は、社会現象、もう一方は、自然現象です。万有引力を勉強すると社会現象にも応用が利きます。
こうなると数学はもはや自然科学とは言えません。
構造が同じならば、何にでも応用が利きます。
つまり、自然科学にも社会科学にもです。
それ故に、数学は、自然科学や社会科学で分けるよりも、「構造の科学」とひとくくりにすると解かり易いと思います。

そして、構造というものを広く考えますと、ほかにもいろいろとある筈です。
例えば、音楽の楽譜は、れっきとした構造を持っています。
ドレミファという音が一定の順序で並んでいます。
楽譜の音符は、唯単にドレミファが集まっているのではなく、構造を持って配列されています。

構造の科学 三

また、絵画についても構造があります。
いろいろな色がただ単に雑然と並んでいるのではなく、ある構造を持って色が塗られています。
絵描きは、そういう構造を実際に作っていると言えます。

また、後の達人は、碁盤に碁石の構造を作っていると言えなくもありません。
作曲家は音の構造を作っていると言えます。
このように構造というものをとても広く考えますと、人間の創造的な活動というものは、いづれも何らかの構造があると言えます。
新しい構造を作り出す事が想像力と言えるのかもしれません。
建築が構造とすれば、建築の設計者は、新しい構造を作り出す想像力を持っていると言えます。

このように非常に広く物事を捉えると、構造というものは、至る所にあります。

しかし、構造を余りに一般化するとそれはもう数学ではなくなってしまいます。
余り構造というものを広げ過ぎると、数学者は、作曲し、絵をかき、建築を設計しなければならなくなります。
これは、はっきり言って不可能です。
そこで、数学者は、初めに風呂敷を大きく拡げて、そして、つぼめる事をします。
数学という学問で研究する構造というものをある程度制限をしなければならないのです。

そこで、数学では、構造というものを大体大まかに3つに分けたのです。
それが位相的構造、代数的構造、順序構造です。

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