数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
解剖法と打診法を簡単に言いますと、何かの構造を知るためにそれを動かして見せる。
ある操作で変化させてみる。
そうして、どのように変化するのかを見てそのものの構造を知るという方法です。
例えば、八百屋さんでスイカを売っていたとします。
中が熟しているかどうかを見るのに、素人は割らなければ解かりません。
しかし、八百屋さんは慣れていますので、割る事はしません。
八百屋さんはスイカを叩いてみます。
スイカを振動させて、スイカが出す音で打診するのです。
スイカを割ってみるというのを仮に解剖法と名付ければ、叩いてみるのは打診法といえます。
人間は、中を見ないでも叩いてみて、中の構造を知る方法をいろいろなところにある事を知っています。
お医者さんが患者のおなかの中がどうなっているのかを診るのにおなかを打診します。
名医は、打診するだけで解ります。
例えば、これが叩いてわからずにおなかが痛くなったらすぐにおなかを切るということになったら、とてもじゃないですが、堪えられません。
解剖ができない場合は、打診を行います。
以上のように群論とは、物の構造を叩いてみる打診法に当たります。
ものをある操作で動かしてみる。
その動きでもってその構造を知るという方法が生まれたのです。
また、地面の下がどのような構造になっているのかを知るのに、人工地震を起こして、其の自身の波の伝わり方を解析して地質を調べることをしています。
これは、スイカを叩いて中身の構造を知る方法と同じです。
群論とは、このようなものなのです。
以上のような考えをガロアは代数方程式を解くのに適応しました。
そして、完全にこの問題を解いたのです。
代数方程式は、中学時代に2次方程式まで学んでいる筈です。
2次方程式の次には、3次方程式が必要になります。
次に、4次方程式です。
4次方程式までは解けました。
しかし、5次方程式はうまくゆきませんでした。
足し算、引き算、掛け算、割り算と根号を使って解こうとしましたが、何乗根という事で5次方程式を解こうとしても解けませんでした。
そこで、これはいくら行っても解けないのではないかとの疑念が起こりました。
この問題に対しても、ガロアは、群の考え方を使って5次方程式以上は足し算、引き算、掛け算、割り算、それから根号の有限回の組み合わせでは、どうあっても解けない事が証明されました。
その一方で、どのような条件でなければ解けないかという事も表しました。
5次方程式は、ガロアが出した条件に当てはまらないことが解かったのです。
このことで群論というものがそれほどまでに威力があるのかを初めてガロアが示したのでした。
こうして群論の考え方は他の部分でも使われるようになりました。
大分後になって、幾何学の研究に使われることになりました。
これは図形を変化させてみます。
動かしたり引き延ばしたり縮めたりして図形の性質を知ろうということです。
近年では、物理学で原子の中の状態を知るために群論を使うとうまくゆきます。
群論というものが何かの構造を知るのに大変強力な武器となりました。
群論とは静的ではなく動的なものです。
建物も構造ですが、この建物の構造を研究する場合とか、または壁紙の模様を作ってゆくとか、または 着物の模様を作るとか、こうしたものに群論が大変うまく使われています。
模様と言っても写実模様ではなく、幾何学模様です。
この幾何学模様は、同じ部分が何回も繰り返すものです。
この模様全体を左右に動かしても幾何学模様は変わりません。
または、線について 折り返しても変わりません。
しかし、ある線について折り返すと変わってきます。
これにより、どのような動かし方だと変わらないのかが解かります。
これにより、模様をいろいろなタイプに分ける事が可能になります。
大体17種類あるということになっています。
これが解かりますと、模様の一部分だけ書くと、あとは、自動的に全部が描けてしまうのです。
このような事が群路何を使うと大変見通しがよく扱えるのです。
こうした模様の構造の研究に群論を使うということが、ここ百年くらいで行われていきました。
デザイナーにも群論が必要になってきています。
デザイナーも数学者から群論の講義を受けていると言います。
そして、日本は、世界的なファッション発信地となりました。
世界的なデザイナーも数多く輩出しています。
つまり、模様とは一つの構造なのです。
群論が洋服のデザインなどに使われている事を学びたければ、ヘルマン・ヴァイル(1885~1955)『シンメトリー』(紀伊国屋書店)という本がありますので、興味のある方は読むといいです。
この本は枝とか模様といったものの中に、群論がどう使われているかということがとても分かりやすく書かれています。
群というのは、構造を動かす事によって知ろうという打診的な方法です。
解剖的な方法ではなく、打診的な方法なのです。
これは、数学のいろいろなところで使われるということです。
以上、簡単に現代の数学を述べてきましたが、現代の数学の方が近代の数学より解かり易いという側面があります。
つまり、数学に関しての知識がない人にも解かるのが現代の数学なのです。
むしろ、何も知らない人の方が解かり易い筈です。
つまり、常識に数学が次第に近づいてきたという事を示しています。