数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
歴史的に見て現代数学がそれまでの数学と違ったものとして最初に登場したのは、1899年にD.ヒルベルト(1862~1943)が発表した『幾何学の基礎』です。
これに現代数学特有の考え方が現れています。
数学を大きく分けて、古代、中世、近代としましたが、その中で、古代から中世に移る端緒となったものがユークリッドの『原論』でした。
このユークリッドの『原論』も幾何学に関するものです。
そして、中世から近代に移るきっかけとなったものがデカルトの『幾何学』です。
近代から現代に映るのがヒルベルトの『幾何学の基礎』なのです。
つまり、数学の発展のきっかけはいづれも幾何学なのです。
面白いですが、幾何学が数学の転換点になっています。
それは何故かといえば、幾何学というものは、私たちの世界認識の仕方に大きく関係するものをはらんでいるからです。
幾何学では、点か線は何であるのか、それに対する考え方をはっきりと決定しなければ、何事も始まりません。
数学以外の学問も同じような事に直面しますが、幾何学ほど明確にそのような問題に直面する学問はありません。
以上のように幾何学というものは、私たちが住んでいる現実世界、或いは客観的な世界をどのように見るのか、その見方は様々あります。
ユークリッドの場合は、誰もが知っていて木場門の余地がないものをいくつか設定して、それらをうまく組み合わせて用いる事で、複雑な事実を導き出してくるという方法でした。
しかし、ヒルベルトの『幾何学の基礎』は、はじめ、ユークリッド幾何学の正しい基礎づけをする事を目的に書かれたものだったのでした。
ユークリッドの公理の中には、いくつも不完全な公理が存在します。
その中には、また、余分なものや足りないものがざらにあります。
ヒルベルトは、それらを全てきれいに整理するために、つまり、余計なものは省き、足りないものは補いながら、ユークリッド幾何学を数学で用いるのに必要十分な公理体系を打ち立てようとしたのです。
それがヒルベルトの『幾何学の基礎』を始めたきっかけでした。
例えば、ユークリッドの公理には、誰の眼にも論理的でなく、また、さまざまな首をかしげてしまうような 公理がたくさんあります。
それを整理しようという事をヒルベルトは、まず考えたのです。
しかし、唯、ユークリッドの公理の整理をするのみでは、別段、価値があるものではありませんでした。
ユークリッドの公理を整理する事で数学に大きな影響を及ぼす筈がありません。
つまり、ヒルベルトの最初の目的では、何ら数学の転換点になるわけがありませんでした。