数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
近傍によって空間を規定してゆくこともできますが、また、閉包という考えで空間を作ってゆくことも可能です。
平面上に円があってその内部だけの集合をAとしましょう。
それ故にその円は周囲はAに含まれないものとします。
円外の点qがあったならば、十分小さい近傍をとりますと、その中にAの点が入り込んでこないようにします。
ところが、この時円周上の1点pをとりますと、pはもちろんAには含まれませんが、pの近くにはAが属する点がいくらでも存在します。
つまり、pの近傍はいくら小さいものを選んでも、その中にAの点は入り込んできます。
つまり、点pは全ての近傍がAと空でない交わりを持つときこのような点をAの触点といいます。
Aの点はもちろんAの触点ですが、円周上の点もやはりAの触点となつています。
Aの触点全体の集合をAの閉包といい、<A>と表すとします。
この<A>の性質を上げます。
(1)の条件でAの点pは常にその近傍に含まれますので、pはAの触点です。それ故にAは<A>に含まれます。
A⊂<A>
次にpが<<A>>に含まれるとしますと、pの近傍U(p)には必ず<A>のある点が含まれています。
この点をqとしますと、(3)によってqの近傍U(q)でU(p)に含まれるものが存在します。
qはAの触点ですので、U(q)にはAの点が含まれます。
それ故にU(p)はAのある点を含みます。
それ故にpはAの触点にもなっています。それ故に
<A>⊃<<A>>
既に証明したように<A>⊂<<A>>にもなつていますので、
<A>=<<A>>
次にA∪Bの閉包について考えます。
触点の定義から
<A>⊂
<B>⊂
それ故に
となる事は自明です。
その逆を証明しましょう。
pがに属するものとします。
そして、<A>にも<B>にも属さないとします。
そうするとpの近傍でAの点を含まない近傍U(p)と、Bの点を含まない近傍U'(p)が少なくとも一つは存在します。
(2)によってU(p)とU'(p)の両方に含まれる近傍U''(p)が存在することになります。
このU''(p)はAの点もBの点も含まないので、pはA∪Bの触点ではありません。
これは、仮定に反します。
それ故にpは<A>か<B>か少なくとも一方に属さなければなりません。
p∈<A>∪<B>
それ故に、
前述の結果と合わせますと、
もう一つ補足しますと、空集合φの閉包は空集合です。
すなわち、
<φ>=φ
です。
まとめて書きますと、
1. =<A>∪<B>
2. A⊂<A>
3. <<A>>=<A>
4. <φ>=φ
「Aを閉包<A>をつくる」という<>は1.2.3.4.を満足するRの部分集合に対する操作です。
元をただせば、この閉包をつくる<>は近傍から「近傍→触点→閉包」という順序で導き出されたものなのでした。