数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
歴史的に見て最も早く登場してきた構造は、群です。
それは、次のような公理を満たしている記号の集合Gのことです。
(1) Gの任意の2つの要素の組a,bに対してはGのあるほかの要素cが対応する。
これを関数の記号で表すと、
f(a,b)=c
つまりGの要素を変数とする2変数の関数が定義されています。
(2) このf(a,b)=cはつぎのような条件を満たします。
任意の3つの要素に対してf(f(ab),c)=f(a,f(b,c))
これを結合法則と言います。
(3) すべてのaに対してf(a,e)=a,f(e,a)=aとなるようなeが存在する。
このようなeを単位元と言います。
(4) すべてのaに対してf(a,b)=e,f(b,a)=eとなるbがただ一つ存在します。
このようなbをaの逆元と言います。
以上のような条件を満たす2変数の関数f(a,b)が集合Gの上で定義されているときに、Gを群と言います。
つまり、群とは集合Gにf(a,b)が付け加わった1つの構造なのです。
ここで確かに1つの構造である事は解かりましたが、それだけでは、このような群が数学全体に限らず、何故ほかの分野にまで浸透して威力を発揮するのかの説明になっていません。
ここで例を用いて説明します。
その前にf(a,b)とかくと解かり辛いのでf(a,b)をabと書きます。
これは乗法を意味しますが、現時点で、乗法とは無関係なのでこれを用います。
すると先の条件は、次のようになります。
(2) 任意の3つの要素に対して(ab)c=a(bc)
(3) すべてのaに対してae=a,ea=aとなるようなeが存在します。このようなeを単位元と言います。
(4) すべてのaに対してab=e,ba=eとなるbがただ一つ存在します。このようなbをaの逆元と言います。
このようなbをa^-1と書きます。
つまり、aa^-1=e,a^-1a=eとなるようなa^-1です。
群Gの例を上げてみましょう。
正三角形の中心をピンで止めてそれを回転してみます。
この正三角形を120度だけ回転する操作をa 、240度回転する操作をbとします。
0度回転、つまり、動かさない操作をeとします。
ここで、
G={e,a,b}
とします。
ここでaを先に操作して、そのあとでbを操作するのをabと表記します。
このような操作は360度回転するので、何もしないのと同じですのでeです。
ab=e
つまり、abという乗法は2つの操作の連続操作を意味するものです。
そして、逆元がa^-1はbになりますし、bの逆元はb^-1はa、eの逆元はeです。
a^-1=b,b^-1=a,e^-1=e
個の群は、三個の要素からできています。
群の要素の個数を位数と言います。つまり、この群の位数は3です。
一般に群の乗法は交換法則が成り立ちません。
この点が数と違います。
よく考えますと、軍の要素は操作なので、それを行う順序が違っていれば、それによって生じる結果が違うのは当然です。
例えば、化学の実験で、硫酸を薄めるとき、水に硫酸を入れてゆけば危険はありませんが、これを硫酸に水を入れるという受所が違うことをすれば危険極まり有りません。
これは、順序を変更してはいけない例です。
このような例を探せばいくつも見つかります。
料理なども、「煮る」「焼く」「塩を入れる」……などの順序を間違えますと、味が全く違った料理が出来上がってしまいます。
囲碁や将棋でも2つの手の順序を誤ったために勝敗が逆転する事はしばしばあります。
以上のように群の乗法は、操作の連続施行なので順序を変える事はできません。
当然、群の中でも乗法が全て交換可能なものもあります。
このような群を可換群もしくはアーベル群と言います。
アーベルというのは、夭折したノルウェーの数学者、N.Hアーベル(1802~1829)の名を記念したものです。
アーベルは可換群に関連した重要な研究を行ったからです。
先に挙げた正三角形の回転操作をする位数3の群はアーベル群です。