数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
(1) 正負の整数の集合で加法と乗法は通常のものをとります。
Γ={……,-3,-2,-1,0,1,2,3,……}
これが環をなすことは言うまでもありません。
(2) 実数を係数とするすべての多項式の集合を通常の+と×で結び付けるもの。
f(x) = a0+a1x+……+anx
(3) 実数の要素とする2行2列の行列の全体を行列の加法と乗法によって結び付けるもの。
実数,実数
A=
実数,実数
このような行列の作る環には交換法則は成立しません。
その実例として、
1 3
A=
1 4
2 4
B=
3 5
としますと、
1 3 2 4
AB=
1 4 3 5
11 19
=
16 28
2 4 1 3
BA=
3 5 2 4
10 22
=
13 29
ここで、ABとBAをくらべてみますと、明らかに違いますね。
AB≠BA
(4) GF(2)={0,1}の要素を要素に持つ2行2列の行列で、第2列は全て0になるもの。
0 0
=0,
0 0
1 0
=a1,
1 0
1 0
=a2,
0 0
0 0
=a3
1 0
このような行列が環をつくることは、次の表を見れば解かるとお思います。
■加法
+ 0 a1 a2 a3
0 0 a1 a2 a3
a1 a1 0 a3 a2
a2 a2 a3 0 a1
a3 a3 a2 a1 0
■乗法
× 0 a1 a2 a3
0 0 0 0 0
a1 0 a1 a1 0
a2 0 a2 a2 0
a3 0 a3 a3 0
この環は、有限個の要素から成り立っています。
そして、交換法則は成り立ちません。
(5) [0,1]という区間で定義されたすべての連続関数の集合。
これを通常の加法と乗法に結び付けます。
これは交換法則の成立する――つまり可換な――環です。
以上のように環は体よりもはるかに範囲が広いのです。
特に(5)の例が示すように、連続関数の集合も環になるので、解析学との関係も深いものになってきます。