数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
前章で述べたように、体というのは加法群であると同時に乗法群でもあります、という点で「二重構造」を持っていると言えます。
加法群の単位元を0で表し、乗法群の単位元を1(もしくはe)で表します。
この時、0と1だけからできている最小の体が存在することは前章で述べました。
そればかりではなく、位数が3,5,7……となる有限体の実例も挙げました。
ここで、もっと一般化してみます。
体の中には、べき乗法の単位元eが必ず含まれていますが、このeが加法群の中でどのような振る舞いをするのかに注目してみます。
Eを次々と加えてゆくとき、これはみな体Kの要素です。
e
e+e
e+e+e
……
ここで二つとの場合が生じます。
(1) この要素の列はみな互いに異なっている
(2) 同じものが繰り返す
(1) の場合は無限個の要素がKの中に含まれることになって、Kはもちろん有限体ではありません。
この時、
e→1
e+e→2
e+e+e→3
……
という対応をつけると、これは自然数の集合と一対一対応がつけられます。
更に0と0を対応させ、
-e→-1
-(e+e)→-2
-(e+e+e)→-3
……
という対応を付けますと、これは整数全体になります。
更に進んで
(e+……+e)(e+……+e)-1→m/n m n
という対応を考えますと、これは有理数全体と一対一対応がつけられます。
結局、Kは有理数全体の体と同型な体を含むことになります。
(2) の場合は、全勝で述べたようにeを素数回数だけ加えると0となります。
e+e+e+……+e=0 p
このように、素数pが体Kの構造を特徴づける重要な数である事が解かると思います。
この数pをその隊の標数といいます。
(1)の場合には、eは有限回では繰り返さないので、そのような素数は存在しません。
この場合には標数は無限大としてもよいのかもしれませんが、ここでは標数0であるといいます。
これまでに私たちが知っている有理数体、実数体、複素数体の標数は全て0です。
標数pの体はeばかりでなく、あらゆる要素がp個加えれると0になることを注意してください。
a+a+……+a=ae+ae+……+ae=a(e+e+……+e)=a・0=0 P P P
標数Pの体と標数0の体とは、いろいろな点で非常に違っています。
その違いの中でも大小の関係の点が特に違っています。
標数0の有理数体では、各要素の間に大小の関係がつけられます。
それは、不等号<によって表わされます。
もっと詳しくいいますと、有理数体Rの要素は正、負、0の3種類に分けられます。
生の要素aはa>0、負の要素aはa<0と書き表わせば、
(1)a>0、b>0ならばa+b>0、ab>0
(2)a>0ならば-a<0
このような条件を満足するような正、負、0に分けることが出来るのまです。
それ故に、有理数全体を一直線上に並べる事が可能なのです。
しかし、標数pの体の場合は違います。
まず、eは正か負かを考えます。
もし、e>0とすれば、-e>0、(-e)(-e)>0、e^2=e>0なのでe>0でなければなりません。
しかし、
e+e+……+e=0 p
においてeを移項すると
e+e+……+e=-e p-1
左辺は正の数を加えたものなので正ですが、右辺は、明らかに負です。
よって、
正=負
ということになり、これは明らかに矛盾しています。
それ故に、標数pの体には大小関係を導入することは不可能なのです。
有理数体は一直線上に並べるられますが、標数pの体はそうはなりません。
標数pの素体は無理矢理に空間的に並べるとするならば、直線ではなく、円周上に並べ立て方がいいです。
例えば、p=5の素体は円周を5等分した点上にe、e+e、e+e+e、……と並べるとわかり易いと思います。
この時、加法が回転によって上手く表されるからです。
しかし、乗法はそのままでは上手くゆかないので、0を除いた4個の要素を並べ変えなければなりません。
(e+e)^2=e+e+e+e
(e+e)^3=e+e+e
(e+e)^4=e
であるので、演習を四等分するように並べればいいです。
以上のことを大雑把に言えば、標数0の体は「直線的」で、標数pの体は「円的」であると言えます。