数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
複素数まで数が拡張されると、もう新しい数はないと思っていたならば、四元数などというものが見出されました。
そうすると複素数で満足していかなくなります。
それ故に四元数を特殊な場合として包摂するような多元環という広い「数」の範囲が考え出されることになりました。
ここで、一度数は大きく拡張されましたが、ここで終わらないのが、人間という生き物です。
このように無数に存在し得る多元環の型を全て見渡せる一般的な原理はないものかということが問題となります。
でき得れば、全ての多元環を漏れなく数え上げられることがいできるのではないかという期待が生じます。
そこで、思い出されるのが、分析と総合という考え方です。
例として化学を取り上げてみます。
化学がまだ進歩していなかった時代には、人間は無数にある物質をどのように分類し、どこから手を付けてゆけば良いのか、途方に暮れたに違いありません。
物質があまりにも多過ぎるからです。
ところが、物質にはいくつかの元素というものがあって、他の物質はそれらの元素が結びつきあっていることがは発見されます。
こうなると状況は一変します。
H2OやHClやH2SO4のように化合物を分子式で書き表されることに気が付きます。
すると物質の合理的な分類が可能となり、できるだけ単純な物質から研究をはじめて、そして複雑な物質へと研究を進めてゆくという手順がはっきりとします。
そればかりでなく、分子式から自然界に存在しない物質が人工的に生成できるようになります。
これは次のような次第です。
複雑な物質→(分析)→元素→(総合)→化合物
このように分析と総合の方法は化学ばかりではありません。
自然科学一般に広く用いられてゐる方法なのです。
数学ももちろん例外ではありません。
分析と総合の方法を多元環に適応しますと、構造定理と呼ばれる一連の定理群が得られます。
これは、主としてアメリカの数学者、ウェッダーバーンの得たものです。
これらの構造定理は、元素と分子式が化学の中で演じたものと同じ役割を多元環論の中で演ずることになりました。
それは、まず、単純な多元環を見つけ出し、そのような多元環の分解を行います(分析)。
そこから、一転して、多元環を適当に合成して複雑な多元環をつくります(総合)。