数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
環が作り出されてくる過程の一つとして、準同型の作る環があります。
Mがある加法の群であるとしますと、
M={a,b,c,……}
任意のa、bに対して
a±b∈M
となるものとします。
ここで、Mの要素aをMの要素dにうつす写像αがあって、次の条件を満たしているものとします。
α(a±b)=α(a)±α(b)
和を和に変えますが、一対一とは限らず一般には多対一であっても構わないので、準同型と言えます。
このような全ての準同型の集合
R={α,β,……}
を取ります。
このRの中に次のようにして加法と減法を定義します。
(α±β)a=α(a)±β(a)
そのようにして定義した和と差はやはり準同型です。
なぜならば、
(α±β)(a+b)=α(a+b)±β(a+b)
=α(a)+α(b)±β(a)±β(b)
=(α(a)±β(a))+(α(b)±β(b))
=(α+β)(a)±(α+β)(b)
となるからです。
また、積αβは、
αβ(a)=α(β(a))
で定義します。
そうすると、これはまた準同型になります。
αβ(a+b)=α(β(a)+β(b))=α(β(a))+α(β(b))
=αβ(a)+αβ(b)
つまり、αβもやはり準同型なのです。
次に加法の交換法則を見てみます。
(α+β)(a)=α(a)+β(a)=β(a)+α(a)
=(β+α)(a)
しかし、乗法の交換側は一般に成立しません。
結合法則は、
{(α+β)+γ}(a)=(α+β)(a)+γ(a)
=(α(a)+β(a))+γ(a)=α(a)+(β(a)+γ(a))
=α(a)+(β+γ)(a)={α+(β+γ)}(a)
{(αβ)γ}(a)=αβ(γ(a))=α(β(γ(a)))
分配法則は次のようにします。
{α(β+γ)}(a)=α((β+γ)(a))=α(β(a)+γ(a))
=α(β(a))+α(γ(a))=(αβ(a)+(αγ)(a)
=(αβ+αγ)(a)
(β+γ)α=βα+γα
についても全く同じです。
以上のことにより、Rが環を作る事が解かりました。
このような環を加群Mの準同型環と言います。
例えばMが位数nの巡回加群
M={0,1,2,……n-1}
でmod nの剰余で表されるものとします。
αが1をmにうつすものとします。
α(1)=m
この時
α(s)=α(1+1+……+1)=α(1)+α(1)+……+α(1) s
=sα(1)=sm
それ故に、このような準同型は唯一つしかない。
これをamで表します。
(αl+αm)(1)=αl(1)+αm(1)=l+m
つまり、
αl+αm=(α)l+m
(αlαm)(1)=αl(αm(1))=αl(1)=lm
従って
αlαm=αlm
αn(1)=n≡0 (mod n)
であるので、
αn=α0
それ故にこの環はmod nの剰余の作る環と同じなのです。
Mが巡回群でなくなりますと、その準同型環は簡単には解からなくなります。
Mを整数の成分を持つn次元のベクトルを作る加法の群、つまり、n次元の格子点の群であるとします。
この時、
1 0 0 0 1 0 0 =e1, 0 =e2, …… 0 =en ・ ・ 0 ・ ・ 0 0 0 1
とします。
この準同型αでe1、e2、……、enがそれぞれ、A1、A2、……、Anにうつったとします。
α(e1)=A1、α(e2)=A2、……、α(en)=An
このA1、A2、……、Anを知るだけでαは一通りに定まります。
a11 a21 a1n a22 a22 a2n A1= ・ A2= ・ …… An= ・ ・ ・ ・ an1 an2 ann
一般のベクトルを
x1 x2 X= ・ ・ xn
1 0 0 0 1 0 X= ・ x1+ ・ x2+ ……+ ・ xn ・ ・ ・ 0 0 1
=e1x1+e2x2+……+enxn
α(X)=α(e1x1+e2x2+……+enxn)
=α(e1x1)+α(e2x2)+……+α(enxn)
=α(e1)x1+α(e2)x2+……+α(en)xn
=A1x1+A2x2+……+Anxn
a11 a12 …… a1n x1 a21 a22 …… a2n x2 = ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ an1 an2 …… ann xn
αはこのn行n列で完全に定まりますので、αをこの行列と同じに見ても構いません。
このようなαの全体は整数の要素を持つ行列の全体と同じです。
n次元の格子点のベクトルの代わりに(-∞,+∞)の区間で定義された関数f(x),g(x),……を考えてみます。
この時、f(x)を他のある関数にうつす準同型をαとしますと、
α(f(x)±g(x))=α(f(x))±α(g(x))
でなければなりません。
その上、さらにcが定数の時、
α(cf(x))=cα(f(x))
が成立する時、αを線形作用素(Linear operator )と言います。
このような例として微分の演算があります。
それというのも、
d/dx(f(x)±g(x))=d/dxf(x)±d/dxg(x),
d/dx(cf(x))=cd/dxf(x)
となるからです。
ただし、f(x)、g(x)はともに微分可能であるとします。
このように考えますと、f(x)から切り離してd/dxというオペレーターを考えることができるようになりました。
このオペレーターは、解析学で重要なものです。
いまf(x)をxf(x)に変えるオペレーターを単にxと書く事にすれば、
d/dx(xf(x))=xd/dxf(x)+f(x)
f(x)を変えないオペレーターをEと書くと、
=(xd/dx+E)f(x)
それ故にオペレーターとしては、
d/dxx=xd/dx+E
という関係式が成立します。
このようにd/dxとxは可換ではないのです。
この関係式は、量子力学の不確定性原理に関係します。