数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
数学の長い歴史の中で、近代的な考え方を持ち込んだのはデカルト(1596~1650)です。
しかし、デカルトのみが偉大ではなかったのです。
デカルトが登場する以前に、近代的な数学の素地ができていたということです。
そして、それらをデカルトが新しい考え方でまとめたのです。
デカルトの数学は『幾何学』と呼ばれるものです。
これは17世紀初めにデカルトの有名な著作物、『方法序説』の付録として出されたものでした。
この《方法序説》は、薄い本ですが、学問の歴史の中では極めて重要な作品です。
また、哲学の歴史においても極めて重要な作品です。
ここでいう「方法」とは学問の研究方法のことだと思われます。
デカルトが生きた時代は、哲学というのは現在と違っていて、自然科学や数学も含有したあらゆる学問を研究するというものでした。
デカルトが生きていた時代の哲学は、科学と非常に近しい存在なのでした。
デカルトは近代哲学の開祖であるとともに第一級の数学者でもあったのです。
『方法序説』では四つの研究の方法というものが書かれています。
第一に、「今までいろんな本が書かれ、偉いといわれている人がいろんなことをいっているが、それは全部疑ってかかれ、それはうそかもしれない、まず第一に疑え」といったことが書かれています。
デカルトの『方法序説』の第一には、「全部疑ってかかれ」ということが書かれていました。
そして、「私が、明証的に真理であると認めるものでなければ、いかなる事柄でもこれを真なりと受容れないこと」、言い換えますと、「注意深く即断と偏見を避けること、そして何らの疑いを差しはさむ余地がないほど明瞭かつ判明に私の精神に現われるもの以外は、決して自分の判断を包含せしめないこと、これである」。
つまり、自分が正しいと得心できない事は、何も信じないこと、ということが書かれているのです。
全てを疑ってかかれということが書かれているのです。
第二は、「私が検討しようとするもろもろの難問のおのおのをできるだけ、またそれらをよりよく解決するために必要なだけ多数の小部分に分割することである」。
つまり、難しい問題でも、上手に切り分けて、一つ一つ解決してゆけば、どんな難問でも解決できる、換言すれば、分析をするということが書かれています。
非常に複雑に込み入った問題でも、それを細かい部分に分けて、一つ一つを確実に分析捨て行けば、難問でも解けるということです。
これが分析というものです。
この分析ということは、現在では、当たり前の考え方ですが、当時はこのデカルトの書いたものは非常に新しい考え方なのでした。
第三として分析とは反対の考え方ですが、総合というもので、「最も単純で、最も認識しやすいものから始めて、少しづつ、いわば段階を追うて複雑なものの認識に至り、また自然的には相互に前後のない物事の間に秩序を仮定しながら、私の思想を秩序だって導いて行くことである」。
これを簡潔に言えば、小さな部分に分解したものを、今度はある方法で秩序立てて組み立ててゆく、つまり、総合してゆくということです。
第四は、「そして最後に全般にわたって、自分は何一つ落とさなかった革新するほど完全な列挙と広汎な再検討をすることである」。
これを換言すれば、最後に自分が秩序立てていて組み立てたことに見落としがないかということです。
以上の四つの法則を打ち立てたのです。
これらは、至極真っ当なことで、真理とは、当たり前のことに違いなく、特に複雑なものではないということです。
しかし、普通の人では、そのことをなかなか気づきません。
デカルトが先述のように明確に言うことで、それまで、誰もが薄々としか気付いていないものが明確になるということです。
その点でてぜかるとは天才といえるでしょう。
発見したことはとても平凡なことですが、デカルトが言い出すまでは誰も言い出す者がいなかったのです。
以上の考え方を数学に持ち込んだのがデカルトなのでした。