数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
集合Aの触点を考えてゆくとA⊂<A>ですので、一般的にはAの外にはみ出します。
しかし、<>という操作によってそれ以上は大きくならない集合を閉集合といいます。
つまり、
A=<A>
という集合です。
「閉じている」という言葉は数学によく出てきますが、簡単に言えば、ある集合に対して何らかの操作が定義されていてその集合の範囲内だけでその操作が完全に遂行されるとき、その集合はその操作に対して「閉じている」といいます。
トポロジーでは、「触点をつくる」とい操作が自由に遂行できるのが、閉集合です。
閉集合のいくつかを上げてゆきます。
閉集合の有限個もしくは無限個の閉集合の共通集合はやはり閉集合です。
A1,A2,……
の共通部分をDとします。
D⊂A1
D⊂A2
……
ですので、
……
従って
一方で、D⊂
それ故にDは閉集合なのです。
この性質を使うと<A>とAの閉包と名付けた理由がよく解ると思います。
<A>はAを含む閉集合のうちで最小のものであり、また、Aを含むすべての閉集合の共通部分です。
定理:有限個の閉集合の合併集合はまた閉集合です。
これは、二つの閉集合について証明し、それを次々に適応してゆけば有限個の場合は証明できます。
A1,A2が二つの閉集合であると仮定します。
ここでA1∪A2をつくってみます。
それ故にA1∪A2は閉集合です。
これを次々に適応してゆきますと、
A1∪A2∪……∪An
が閉集合であることが証明できます。
しかし、ここで注意しなければならないのは、無限個の閉集合の合併集合は必ずしも閉集合にはならないということです。
閉集合の余集合を開集合といいます。
だから、閉集合についての∩、∪の関係は∪、∩と逆転して開集合についても成立します。
有限もしくは無限個の開集合の合併集合はまた開集合です。
有限個の開集合の共通集合は開集合です。
善空間Rと空集合φは開集合です。
ここで、この開集合がそれに属する点の近傍と考えると(1)、(2)、(3)を満足する近傍空間になるだろうか。
つまり、これまでとはき逆の路を辿ってみるのです。
閉包→閉集合→開集合→近傍→近傍空間。
1.2.3.4.を満足する閉包の定義された集合R――つまり、空間R――は(1)、(2)、(3)を満足する近傍空間になるのでしょうか。
答えは肯定的なのです。
空集合φは閉集合です。
それ故に余集合Rは開集合です。
それ故にRの任意の点pに対してはそれを含む近傍Rが少なくとも一つは存在します。
Pを含む開集合をpの近傍とすれば、(1)は成立します。
pの二つの近傍をU(p)、U'(p)とすると、その余集合をそれぞれA、BとするA、Bはもちろん閉集合です。
そうすると、A∪Bはもちろん閉集合です。
そのとき、その余集合U(p)∩U'(p)は開集合でpを含んでいるのでpの近傍です。
それ故に(2)が証明されました。
pのの近傍U(p)に属する点qはU(p)に含まれるのでU(p)はqの近傍でもあります。
それ故に(3)が成立します。
それ故にこのような空間が近傍空間であるということが解かりました。
(i) 近傍の指定
(ii) 閉包の指定
(iii) 閉集合の指定
(iv) 開集合の指定
(i)と(ii)の関係は先述した通りです。
(iii)と(iv)も同様に関係づけることが可能です。
(iii)はRの部分集合の中で「閉集合」と称するものを指定して、それが次の条件を満たすものとします。
(1) 有限もしくは無限の閉集合の共通集合は閉集合です。
(2) 有限個の閉集合の合併集合は閉集合です。
(3) Rと空集合は閉集合です。
これから出発しますと、Aを含むすべての閉集合の共通集合を<A>と定義すれば、(ii)につながります。
また、(1)、(2)、(3)と∪、∩を入れ替えて開集合を定義しても構いません。
以上4つの方法で集合Rに遠近の関係を導入することができ、そのような遠近関係の導入された「点」の集合Rを位相空間と言います。
位相空間Rの満たすべき条件はわずかです。
位相空間は極めて広い範囲の「空間」を包括することができます。
1次元の直線も、2次元の平面も、3次元の立体も、n次元の相空間も、無限次元のヒルベルト空間も、距離空間である限りこの位相空間の一種になります。
しかし、余りに広範にするのも困るので、条件を連れて特殊化します。