数学が密かなブームということで、遠山啓著「現代数学入門」(ちくま学芸文庫)をもとに現代数学について解説しています。
ヒルベルトは構造という言葉を使いませんでしたが、ヒルベルトが意味していたのは、将に構造そのものだったのです。
ヒルベルトのいう公理とは、「何について」という事は一応問わないという事にして、どんな型の関係が成り立つのかという事に重点が置かれています。
確かに「何」という事を問わずに「どのように関係するのか」という事に注意を向けるという事は、自然に普通に存在する順序というものを無視していて、数学の門外漢には、その点が解かりにくい点です。
しかし、その点がヒルベルトの新しさといえます。
私たちを取り巻く世界には不思議なくらいに同じ型をした、また、同じとまでは言えなくとも、似たような型をした関係が存在しています。
しかも、全く違ったものの中に同じような関係が存在しているのです。
また、そのような関係が存在していなければ、数学という学問は存在していなかったでしょう。
直角三角形から生まれたsinxやcosxが何故単弦振動に登場してくるのか、不思議と言えば不思議です。
円周率πが何故ガウスの誤差法則に登場してくるのか、また、電気のポテンシャルの微分方程式
∂^2/∂x^2+∂^2/∂y^2+∂^2/∂z^2=0
が何故重力ポテンシャルにも登場してくるのか、また、流体力学にも出て来るのか、ものが違うので法則も一つ一つ違っていてもいいのですが、何故同じ法則が出て来るのか、解りませんが、自然とはそういうものです。
数学者は、uが具体的には電気のポテンシャルであるのか、重力のポテンシャルであるのか、渦のない流体の速度のポテンシャルであるのかは、ひとまず問わずに、その関数として、その性質を探求するのが数学です。
それは、その結果を電気にも重力にも流体でも適応したいがためだからです。
以上のように同型の関係または法則を持った数多くの現象をひとまとめにして研究する事を数学は、その誕生以来ずっと行ってきたのです。
その点で、ヒルベルトは別段新しい事は何にも云っていませんが、唯、ヒルベルトがはっきりと言葉で言ったのです。